耐えて、平然としてるようだった。
 夏になって、学校も休暇になると、男の子の信吾が、庭を掃いたり草を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]ったりする姿も見えた。これも姉さんと同じく、痩せがたのおとなしい子で、顔の表情がひどく少なかった。表へ出て他の子供たちと遊ぶことも殆んどなく、家の中で静かに何かしていた。
 晩になると、時折、読書してるらしい市木さんの高い声が、その二階から聞えることがあった。或る時、ちょっと注意を惹かれるふしがあって、私は例の竹垣を跨ぎ越し、市木さんの庭にはいってゆき、二階の下に佇んだ。市木さんは高い声で読んでいた。
 聞いているうちに、私にもすぐに分った。それは、私が書いた童話だったのである。
 場所はどこでもよいが、まあ西洋のつもりである。その或る所に、むかし、羊飼いの少年がいて、石ころでも何でも金貨にしてしまう不思議な皮袋を手に入れ、それを持って、都を見物に出かけました。幾日かの旅の後、都に着きました。大きな立派な家が立ち並び、人がぞろぞろ通っていました。夕方になると、一面に灯がともり、美しく着飾った人が多くなりました。少年は、腹がすいていましたので、
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