さんの遺骨も到着したから懇ろに弔ったことなど、毛筆で荘重に誌されていた。
土居さんは訳が分らなくなったらしかった。私とてもそうだった。本人とその死体とは別物だという説、遺骨を小包郵便などで送りつける仕方、永代供養料としての多額な金の寄進、それらのことの間にどういう脈絡があるのか、市木さんの真意が掴めなかった。
考え込んでいた土居さんは、何かに胸を衝かれたかのように顔を挙げた。
「あなたは、金を寄進することによって、凡てを帳消しにする。つまり、金銭で贖ってやれと、そういうおつもりなんでしょう。」
「ははあ、あなたらしいお考えですな。」
土居さんはひどく渋い顔をした。そして酒を何杯か飲み、もはや問答無用というような眼付で市木さんを睥みすえ、私の方へは目礼をして、他に急用があるからと言って辞し去った。
市木さんは玄関まで送ってゆき、戻ってきて座に就きながら言った。
「金銭の奴隷が、とうとう尻尾を出しましたな。あれだからわたしはああいう連中が嫌いですよ。」
私は探るように言ってみた。
「永代供養料の金額が、ちと多すぎるとでも、思われたのではありますまいか。」
「いや、多すぎはしません
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