だんはそれでお宜しいでしょうが、あなたが病気で寝込みでもなすったら、どうなさいますか。こんどだって、弘子さんの遺骨を信州の田舎へ運ぶについて、誰か留守番が必要だったでしょう。」
「いや、それは、小包郵便で送りました。」
「え、遺骨を小包郵便で……。」
 それには聞いていて私も驚いた。弘子さんの遺骨が信州の田舎にいってることを、私はその席で初めて知ったのだが、その方法が小包郵便に依るとは、意想外だった。いったい、そんなことが許されるものだろうか。土居さんも顔色を変えた。
「あなたというひとは、まるでめちゃですね。遺骨をどこかに打ち捨てるのと同じじゃありませんか。無事に先方へ届きましたか。」
「届きましたとも。鄭重な返事が来ましたよ。御疑念があるなら、証拠をお見せしましょう。」
 市木さんは立ち上って、用箪笥の抽出から一通の手紙を取り出し、土居さんに見せた。土居さんはそれを、注意深く二度繰り返し読んだ。そして私の方へ廻した。
 手紙は、信州の田舎の、市木家の菩提寺の住職から来たものだった。市木さんの亡妻と弘子さんとのための永代供養料としての二万円を、確かに受け取ったこと、それから次で、弘子
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