と海苔が出ていた。
 長い沈黙の後に、土居さんはふと気付いたらしく、食卓の上を見渡して話題を変えた。今後のことについてである。
 弘子はまだ女学校の生徒だったとはいえ、女のことだから、家事の手伝いなどにはだいぶ役立った筈だ。それが亡くなったからには、今後のことも考えなければなるまい。市木さんはもう再婚は無理だとしても、女中でもおいたらどうだろうか。そういうことを土居さんは言った。自分たちがついているのに、近所の人たちの手前もあるし……ということを強調した。
 市木さんの返事は、ただ、一切構わないで貰いたいという一事に尽きた。
 土居さんはまた憤慨しかけた。
「構わないでくれと、あなたはいつも仰言るが、それでは世間に通用しませんよ。弘子さんの葬式にしたって、ずいぶん、御近所の方々の世話におなりなすったでしょう。もう昔のことですが、奥さんが亡くなられた後、わたくしは何度も再婚をお勧めしましたが、あの時も、構わないでくれの一点張り……。こんどもまたそうです。年とったあなたと小さなお子さんと、二人きりで、これからどうして暮してゆくおつもりですか。」
「それは、わたしの手一つでやれます。」
「ふ
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