る、それがつまりは、仏さまへの供養ともなり、御近所の方々への義理を立てることにもなるのです。あなたのお話を承っておりますと、ただ御近所の方々に任せっきりで、わたくし共はまるで無視されたとしか思えません。そういう御料見ならば、それでも結構、わたくし共でもそういう料見をすえましょう。然し、弘子さんは可哀そうでした。どこへも、後になってからしか知らせなさらなかったのですね。縁故の者で、葬儀に立ち会った者は一人もなかったのですね。わたくしはちょっと旅行していまして、帰って来ると通知状が来ていました。しかも、十日も過ぎてからの、謂わば一片の報告にすぎません。家内はふだん御交際がなかったものですから、思い惑っていました。わたくしは外の用事を差し置いて、駆けつけて来たのですが、もう遺骨もない始末じゃありませんか。そりゃあ、あなたの無信仰は、あなたなりの主義がおありのことでしょうし、わたくしから異議は申しません。然し、弘子さんの亡骸にお別れする機会ぐらいは、わたくし共にも与えて下さるのが、当然のことではありますまいか。」
土居さんは言い終えて、杯をあおった。先程から断片的に抗議したことを、私にも聞か
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