り、垣根を跨ぎ越して行ってみた。庭から声をかけると、硝子戸の中の縁側に市木さんは突っ立っていた。真赤な顔をして、唇をかみしめていた。私の方を睥むようにじろりと見て、硝子戸を開け、足元を指し示した。そこに、猫が横たわっていた。だらりと伸びて、もう息絶えてるらしかった。
「こいつ、成敗してやりましたよ。」
そして市木さんは猫の死体を睥みつけた。
私はなんだかぞっとした。
市木さんは猫を二匹飼っていた。まだ親猫にはなりきっていないが、だいぶ大きくなっていた。二匹とも三毛、といっても、白地に赤毛と黒毛が丸い玉をなしてる立派な三毛ではなく、だいたいは白地だが、それに赤毛と黒毛がいい加減に生え別れてる普通のものだった。娘さんがほしがって貰って来たものだとか、私は聞いていた。市木さんの足元に今のびてる猫は、私にも見覚えのあるその一匹だった。
市木さんの説明によると、その猫は、いつの頃からか野良猫のような性質に変った。二日も三日もいなくなったかと思うと、こそこそと家にはいって来て、飯を食いちらして、また出て行った。それだけならよいが、あちこちに尿をひっかけて、駆けだして逃げて行った。市木さんの
前へ
次へ
全39ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング