つも山羊乳に食麺麭を食べていた。それから食事の間にも、砂糖分の多い菓子は腸にいけなかったので、物を欲しがる時はいつも食麺麭をやっていた。それを堯はいつも大変喜んでたべた。毎日、少し遠かったが品がいいのでA堂から、麺麭を配達して貰っていた。がその日はその麺麭をも手にしなかった。「どうしたんだろう。」と私は芳子と顔を見合った。然し別に堯は泣きもしなかった。ただしきりに眠そうであった。
間もなくU医師はやって来た。一通り診察がすんだ。腸に大分食物が停滞しているとのことだった。然し別に心配するほどではないとのことだった。長い間ひどい腸の病気に悩んで来た後だったので、そしてそういうことはよくあったので、私は別に驚きもしなかった。
氷枕で頭を冷やし、また額も冷してやった。四時すぎに一回便通があったが、大して悪い便でもなかった。五時に医者の許から貰って来た薬を与えた。熱をはかると七度六分に下っていた。
「やっぱり何でもなかったようだね。」と私は云った。
「熱が下れば宜しいんですわね。」と芳子は答えた。
然し私達は何だか心の底で不安だった。妙に堯は睡眠を欲しているらしかった。それでも食事の時には
前へ
次へ
全40ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング