いた。私達は喜んだ。N神社の祭礼には、小さな万燈《まんどん》を買ってやると、それを手に持って、後ろから人に身体を支えさせながら、家の中を駆け廻った。
 芳子は二度目の児を妊娠していた。九月末か十月初めに出産の予定だったが、まだそれらしい模様も見えなかった。少し後れても心配はいらないと産婆は云った。「心臓の鼓動が多いようだから屹度女のお児さんでございますよ。」と云われた。それで男と女と一人ずつで丁度よくなるのであった。
 私はその日、堯の顔を覗き込んだ。よく眠っていた。額に手をやると、まだ熱があったが、少しは減じたようだった。でもとにかく一寸した時にかかりつけの近くのU医師を呼ぶことにした。「大丈夫だ!」と私は云った。
 私達だけ食事をした。食事の時はいつも、堯は私の足座《あぐら》の中に坐って物を食べた。その日は堯が眠っているので、珍らしく餉台の前に一人で坐ると、私は妙に物淋しかった。
 食事がすんで暫くすると、堯は眼を覚した。抱いてやってもぐったりしていた。食麺麭の切れを持たしたが食べようともしないですぐに捨ててしまった。食物を取るようになってからも、昼と晩とだけ堯は粥を食べて、朝はい
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