生と死との記録
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)堯《たかし》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五|瓦《グラム》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]
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十月十八日、空が晴れて日の光りが麗しかった。十二時少し過ぎ、私はHの停留場で電車を下りて家へ歩いて行った。賑かなM町通りを通っていると、ふと私は堯《たかし》に玩具を買って行ってやろうかと思った。玩具屋の店先には種々なものがごたごた並べてあった。私はその方にちらりと目をやって頭を振った。そんな考えが私に起ったのは、非常に珍らしかったのである。そして何だか変だった。空を仰ぐと、青く澄み切った大空が円く悠久な形を取って私自身を淋しくなした。
私は何時ものように性急に歩きながら、寺の間の静かな通りを自分の家に帰って行った。
玄関にはいると、常《つね》が一人私を出迎えた。私は一種の物足りなさを感じた。私が勤めから帰って来ると
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