持ちが私に湧いて来た。然し私は力強くなった。手をしっかり握りしめた。
私は次の室に来て暫くT君と話した。堯の容態をきいてT君はきっと唇を結んでいた。
「また来るから。」とT君は帰る時に云った。
「ああ。然し大丈夫だ。いけなくても今夜の夜中だろう。いや、あしたの夜明けが危険かも知れない。」と私は云った。
私はぼんやり室に寝転んで天井を見つめていた。
「あなた!」と芳子が云った。
「何だ?」
「早く病院の方へ。」
「うむ。」
私はそれでも暫くじっとしていた。そして十一時すぎに家を出かけた。
「今度帰って来る時は、堯を抱いて来るかも知れない、俥だったらそうだから。」
芳子は首肯いた。
「いいかい。」そう云って私は芳子の眼を覗き込んだ。「分るだろう。」
「ええ。」と芳子はきっぱり答えた。
私は外に出た。空には薄い雲が流れていた。日の光りが時々陰った。
堯と生れた児とが一つになって私の上に被さった。一は死であり、一は生であった。二つ共愛だった。その両面がぐるぐる廻転した。私は眼が廻りそうになった。と、突然その二つが遠い所へ飛び去ってしまった。私は妙に訳の分らぬ自分自身を見た。そしてそ
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