、強く強く抱きしめてやりたくなった。堯全部は、その全部が、私のもの[#「もの」に傍点]だった。自分のものだった。意識も何もなくてもいい。苦しみも、喜びも、堯は私の胸の中に融け込んでくる。何か大きいものが私を堯の方にぐいぐいと引きずってゆく。……私はその力にじっと唇をかみしめて抵抗していた。眼がくらみそうであった。と、突然何かがぷつりと切れた。私は白痴のようにぼかんとして、じっと堯を見つめていた、その呼吸を。そして独りでに、私の呼吸は堯の早い呼吸と調子を合していた。どうすることも出来なかった。私は堪らなくなった。其処に身を投げ出して頭をかき※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]った。
そういう心の発作が過ぎ去ると、私は深く大きく落ち附いて静まり返っている自分の心を見出した。私は氷嚢に触ってみたり、堯の手首の脈を見てみたりした。
四時頃だったか、急に堯の呼吸の数が多くなったように思えて来た。数を計ってみると五十七あった。不安になって来た。私は眼を閉じて自分の生命を堯の身に注ぎ込もうとした。
夜がいつのまにか明けた。
看護婦は室の掃除をした。私はまずい食堂の飯を食った。朝医員
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