乳を五|瓦《グラム》ずつ与えることになった。乳は女医の人のを搾るのであった。それと共に薬もその前後に与えられた。間々には食塩水も与えられた。堯は、口中に水液がたまると、口を動かしてよくそれを飲み込んだ。
S子さんは種々なものを届けて来た。十一時頃、芳子の父のA氏が見舞って来られた。使をやって入院証書の調印を頼んだので堯の病気を知られたのである。間もなく芳子の産婆のIさんが見舞に来た。A氏の家から聞いてである。Iさんは堯をも取り上げた人だった。心配そうに堯の顔を覗き込んで首を傾げた。それから芳子の身体のことも心配している眼付をして居たが、それは何とも云わなかった。
「あなた暫く家で寝んでいらしたら。」と芳子は云った。
「お前こそ眠ったがいいよ。此処で眠ってごらん。」
然しそれは殆んど出来ないことだった。家に帰るにも芳子はその身体では危険だった。で晩になって芳子は眠ることにして、私は少し身体を休めに家に帰った。
常が一人で何か用をしていた。私は座敷の方に蒲団を敷かして寝た。眠れなかった。眼を開いていると、柱にはった白紙で包んだ禁厭《まじない》の札《ふだ》が眼についた。
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