らどうであろう。勿論立会診察は余り益《やく》に立たないと聞いてもいるし、費用の点も大いに違うだろうから、どうかして医者を取り換える法はあるまいか。「それも勿論ただ私の推察だけに止まるんですが、果して腹部に重い病があるとすると心配ですから一応御相談してみたいと思ったのです。」
重苦《おもくる》しい圧迫が壮助の頭に上ってきた。もし果して羽島さんの推察の如く腹部に重い疾患があるとすれば、既に肺を結核に冒されている身体は到底助かる見込みはあるまい。それともまた彼自身も恐れていた如く……腸に結核が生じたとするならば、結果は猶更困難であろう。何れにしても運命はじりじりと光子の上に迫って来つつある。
「如何でしょうかな。」と羽島さんは黙って考え込んでいる壮助の上にまた言葉を投げた。
長く看護に疲れた羽島さんの心には、一寸した考えの向け方が直ちに凶なる予想を事実として決定せしめるだけの切端《せっぱ》つまったものがあった。そしてその考えが壮助にもすぐに感染してきた。
「兎に角私が医者によく聞いてみましょう。」
「どうかお願いします。」
「一体呼吸器の病気は胃腸を丈夫にしなければいけないものですから、
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