生あらば
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)疼痛《いたみ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)種々|悉《くわ》しく
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]
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一
十一月から病床に横わった光子の容態は、三月になっても殆んど先の見当がつかなかった。三十九度内外の熱が少し静まると、胸の疼痛《いたみ》が来たり、または激しい咳に襲われたりした。咳が少しいいと思うとまた高い熱に悩まされた。また不眠の状態と嗜眠の状態とが交々彼女の単調な病床にやって来た。そしてそれらの変化の背後には、絶えざる食慾不振と衰弱とが在った。凡てが渾沌として先の予想を許さなかった。
痰の中に糸のように引いた血液が交ってはいないかを、看護婦は一々調べた。そして皆の眼がその眼附をじっと窺った。皆と云ってもその病床に侍っていたのは、彼女の両親とそれから壮助とであった。
窓に当る西日《にしび》は白い窓掛に遮ら
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