ら出来ますから。」
「いえいつでも宜しいですよ。……ですがね、お金が出来てもすぐに払ってはいけませんよ。私にお任せなさい、すっかり払うなんて馬鹿げていますよ。」
「え、その時はお願いするかも知れません。それでは一寸急ぎますから。」
壮助はそう云って机に向った。自分の方をじろりと見てゆく老婆の視線を背中に感ずるような気がした。
一人になると、彼は急に泣き出したいような感情がこみ上げて来た。凡てが浅間しくそして腹立たしかった。
彼は急いで古谷に手紙を書いた。――五日の晩は急用で後れたこと、金は今奔走中だから暫く待ってくれるようにということ、十五円だけ取り敢えず送るから利息の方へ入れてくれるようにということ。
壮助は手紙と金とを懐にしてそのまま表に飛び出した。郵便局で為替を組んでそれを出すと、初めて一日のことが顧みられた。
空を仰ぐともはや日脚が西に傾いていた。彼は一寸足を止めて、飢えたる犬のようにあたりをじろりと見廻したが、また急に羽島さんの家の方へ歩き出した。そして心の中で、「光子! 光子!」と叫んだ。眼が湿《うる》んできた。
五
怪しい誘惑がいつしか壮助の心に
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