すぐに問題のうちにつき込んでゆけた。
「何か腹部に故障があるのではありますまいか。」
「故障と云いますと?」
「重い腸の病でも併発したんでは。」
「いやそのことなら御安心なすっていいでしょう。私の診《み》た所では余病を併発した徴候はありません。勿論これからのことは分りませんが。唯少し腹部と便の加減がおかしいと思ったことがあったのです。腸が結核菌に冒されるとあの衰弱した身体には余程困難ですから、それを恐れたのです。然し度々便を検査してみましたが、菌は認めません。それに肺の方も左胸に大分浸潤がありますが、この頃痰が余程少くなったのはよい徴候です。然し何しろ年がお若いし、衰弱が甚だしいのに食慾がないのですから、余程注意を要しますよ。それに水気《すいき》が少しあるようですから。」
「それでは今の所危険だという状態ではないのでしょうか。」
「危険だと云えば危険ですが……。急な変化はあるまいと思います。兎に角も少し食慾をつけなければいけませんね。少し身体が恢復すればまた療法もありますが、何しろ衰弱がひどいですからね。それから熱を出さないようにしなければいけません。熱が出ると病勢も進むし、痰が多くな
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