と冷かな批判の言葉とに、私はいちどにまいってしまった。彼に少しでも悪意の色があったら……それとも、どうせ私たちのことをよく知ってる彼だから、どういういきさつからかという動いた気持からの言葉であったら……私は助かった筈である。だがいきなり、金を引出そうとしてる云々と、而も親切気を以てなので、私は答える言葉がなかった。ごくつまらない平凡な言葉で、其の時の調子によっては、ぐさと人の胸をつき刺す[#「刺す」は底本では「剌す」]ようなものがある。
 なんでこの男に分るものかと、反撥的に私は考えて、黙殺する態度をとった。そしてそのことをあなたに黙っていたのは、私の心が痛手を受けたからに外ならない。私は卑怯だったのだろう。心の痛手にふれたくなかった。そしてやはり農園の夢想を続けた。あなたにもその夢想を分ち続けた。
 そこへ相次いで、あなたの裏切が起った。
 富永郁子よ、このことについては、私の認識は明確ではない、然し結局のところ、裏切りという言葉でしか、私の胸に響いたものは云い現わせない。あなたの真情の動きがどういうものだったかは、私は知らない。だがあなたはこう云った。
「みますの娘と御自分とのこと
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