はいやなんだ。ただ気まぐれで……。実は今日、富永さんのところへ行ったんだが、何のことからだったか、ふいに、みますへ行ってみたいと、云い出されて、弱っちゃった……。あれっきり、君は逢ったことはないんだろう。それが、あの人にとっては、淋しい……というわけもあるかも知れないが、何もここまで来なくったって……。そう思ったものだから、坪井なら、連れてきてあげましょう、と云ったところ、ばかに気を悪くされちゃって……それから、ぜひみますへ行くと、そうこじれてしまった。それを、何とかごまかして、晩になったら、僕が様子をみてきてあげると、約束してしまったが、気になるので、とにかく来てみると、君たちにつかまって困った。そこへ、今の電話だ。坪井君や、大勢いるから……といったところ、そんならなおいい、これから行くと、そのまま電話は切れちゃった。君、出てしまおう。こんなところへ来られちゃあ……面白くないし……。」
 何か物を考え考え云ってるそのゆっくりした調子に対して、坪井は怒ったような言葉を投げつけた。
「何が面白くないんだ。来るなら来るで、ほっとけばいいじゃないか。」
「だって、前々からのいろんなこともある
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