ら彼はやって来、つかまって仲間にはいったという事情もあるし、三人とは気合がしっくりいかないという点もあったが、そんなことよりも、時としては太々しいという感じを与えるほど落付いてる彼の態度に、うわついたところがあった。そこへ、電話だった……。
 その時彼は少女の心理というようなことを論じていた。みよ子が銚子をもってやって来たのを、じっと見やって、だんだん綺麗に女らしくなるじゃないかと、それも坪井に対する皮肉やあてつけではなく、まじめな調子で云いだしたのがきっかけで、昔、女学校の教師をしていた時のことを話していた。その頃彼はまだ独身だったが、独身の若い教師というものは、女学校では、その一挙手一投足が生徒たちの注目の的となる。それはまだ恋愛と名のつくものではないが、若い男性は一種の光で、少女たちは花で、太陽の光の方へ花はおのずから顔をむける。花弁の一つ一つが出来るだけ多くの光を吸収しようとする。期待と競争とが起る。だから若い教師は、教室でも運動場でも、空高く超然と照ってる太陽でいなければならない。もし誰か一人にだけ眼を留め顔をむけると、他の全部に嫉みと反感とが起る。それで彼は教室の中で、いつ
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