笑を浮べていたろう。みよ子が銚子をもってきた時、私はその可愛い手に握手をして云った。
「僕はいつまでもみよちゃんの小父さんだよ。覚悟しておいで。芸者になっても、何になっても、しっかりしていなくちゃいけない。そうでなけりゃ、ぶんなぐってやるよ。」
みよ子はその子供の顔に、唇の片端をきゅっとまげて、こまっちゃくれた反抗の表情をした。眼が女らしく笑って、肉の足りない※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]がつんと澄している……。
私は胸がすっきりと朗かになった。然しその朗かな中に妙に淋しさがすくった。その淋しさは後まで続き、それが私を少し高くへ引上げてくれて、私はなおあなたと連立って人中に出ることが出来た。
私はまだあなたを愛しているような風を装った。何もかも知りながら高くからあなたをいたわってるような風を装った。だが他人から見れば、あなたに引ずられてるように見えたかも知れない。あなたは無頓着な高慢な態度を持ち続けていた。その側で私は、もしあなたと結婚したら……などと自嘲的に考えながら、ともすると暗い気持に沈むのだった。結婚、ただそれだけの考えが、針のように私の心を刺す[#「刺す」は
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