組んで一台借りるのもある。稼ぎがよければ一弗余の収入になることもあり、悪ければ僅か数銭だという。
 この難民区は悲惨を極めている。北停車場の南にある英警備区域内のそれは最も惨めで、空地にテントほどのアンペラ小屋を立て並べ、屋内も寝所だけどうにか作っただけの土間で、一つの小屋に三家族も同居してるのがあり、女子供ばかりの家では屑拾いをしている。アンペラ小屋の間の通路は漸く人が通れるだけのもので、雨が降れば泥水が溢れる。大抵の者は眼病と皮膚病とにかかっているらしく見える。
 日本警備区域内では、北四川路の森永菓子店のすぐ近くに難民区があるのには驚かれる。此処にもアンペラ小屋のものもあるが、戦禍による半壊の家屋を使用してる者が多いのは幸で、世帯整理もよく行届き、長春里第×号などと洒落た名称がついている。この日本地区のみにて窮民二万を数うる由である。
 この両難民区に於て、薄暗い小屋の中でマージャンの牌を弄んでるもの数組を見かけた。吾々が表から覗きこんでも、ただ曖昧な微笑を浮べるだけで、中には見向きもしないで牌を見つめたきりのもいる。公然と数銭の金を賭けているのがある。その悲惨な不潔な環境のなか
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