高笑の声が絶えず、マージャンの音が絶えず、夜中の三四時頃まで続く。この騒々しさの中にあっても、眠りたい旅客は平然と早くから眠りにはいるそうである。上海の租界では、メトロポールの如き入念な建築のホテルでも、四方から騒音が窓辺に襲来してくる。支那旅館は殆んど終夜狂宴の場所だという。
賭博場内の有様は妙である。その内部は予想に反してひっそりとしている。人々はただ黙々として金を受け渡してるだけで、その顔を見ただけでは勝ったのか負けたのか見当もつかず、喜びや悲しみを浮べてる眼付は見えず、勝負を度外視してただ賭博そのものだけを享楽してるようである。その顔付は、傍の小房内で阿片吸飲に陶然としてる人々のそれと、ちょっと見たところでは区別がつかない。斯かる賭博場は日本人には禁止の場所であるが、日本人が多少出入しているハイアライなどで、馬券よりも遙かに小額のその券を買って、あらわに喜んだり悄気たりしてるのは大抵日本人で、支那人は最も平然としている。
斯かる表情の、そして更に斯かる神経の、重積してる群集の中にはいると、往々、自分がその中で溺れ、窒息しそうな幻影に囚われることがある。大陸的神経ということが
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