げるよ。うちの親方もお前には見込があると云っているんだからね。」
庄吉はそう云われたことが嬉しいよりも寧ろ何となく恐ろしく思えたのであった。自分の未来のことを考えると、触れてならないものに触れたような恐しさが後で萠した。そして大留《だいとめ》のうちにも種々な術策が方々で行なわれていることが漠然と彼の頭に入《はい》って、それが一層彼の心を臆病ならしめた。
或日の夕方大留の仕事場から帰って来て台所口の方に廻ろうとすると、その日先に帰った金さんがおせい[#「せい」に傍点]と何やら声高に話している声がして、庄吉という言葉がふと彼の耳に入《はい》った。
「大留《だいとめ》さんが見込がありそうだというんだ。」
「そんなことが子供のうちから分るもんかね。」
「いや兎に角器用なんだ。今までに一度だって怪我もしなかったじゃねえか。」
「何をいうんだよ、お前さんは。怪我でもされて高い薬代を取られた日にはかなわないじゃないかね。」
「まあそれもそうだが、大抵の者あ怪我の一二度はするものさ。……兎に角|大留《だいとめ》さんは多少見所がありそうだから年季に上げたらどうだというんだ。それにお主婦《かみ》さんが
前へ
次へ
全30ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング