あめ》えんだな。」
 庄吉は妙に反抗したいような気が起ったが、別に何とも答えないで専太の方をじろりと見た。専太はにやにや笑って惣吉の話をきいていた。一体専太は始終休みなしによく働くばかりの小僧だったが、いつもにこにこしてるのみで口数の少ない少年だった。それに反して惣吉は横着な影日向をする少年だった。そしていつもお主婦さんの機嫌ばかり取ってることが庄吉にも分っていた。お主婦さんから時々、内証でお小遣を貰うことを庄吉も聞かされたことがあった。「俺は働きがあるんだい。専太の野郎とは異《ちが》うんだからな。」と彼は云った。「惣吉や。」とお主婦《かみ》さんは呼んだ。そして彼はよく昼過ぎのお茶受けを買いにやらされていた。
 然し庄吉は何だかお主婦さんに昵《なじ》めなかった。
「お前年季に上りたいんじゃないのかい。」といつかお主婦さんは彼の眼の中を覗き込むようにして尋ねたことがあった。「私もそれがいいと思うんだがね。……然し小母《おば》さんは随分のしっかり者らしいね。何かつらいことがありはしないかい。あったらそうお云い、私が悪いようにはしないから。でももう暫く辛抱するんだね。そのうちにどうにかしてあ
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