んじゃないかね。私達にだって子供があるしね、並大抵じゃないよ。」
庄吉は黙ってまた仕事の手を早めた。然し心のうちでは年季に上った方がいいと思った。
大留のうちには少年の心をそそるようなものがいくらも在った。新しい木材の香《か》や鑿の音も彼の心を動かした。面白い音を出す柱時計やぴかぴか光っている道具類や棟梁の大きな銀の煙管なども彼の心を引いた。そして其処には彼を「肥桶《こえたご》」と呼ぶ人も無かった。皆が快活に勇ましく働いていた。
彼は其処で鑿と鋸とを持つことを教わった。手斧《ちょうな》や鉋は中々許されなかった。然し彼は仕事に少年としては意外の悧発さを示した。そして自分でも、他人の手に成った螺鑽《おおぎり》の穴を辿って角材に鑿を入れることがもの足りなかった。彼はともすると小父さんの螺鑽をいじってみたくなった。
棟梁は螺鑽を持っている彼の姿を見て微笑んだ。
「今少し辛抱しなくちゃいけない。今に一人前にしてやるから。これで鑽《きり》を使うことは中々難しいんだ。頭が歪《ねじ》けないでしっかりしていないと鑽は真直に入《はい》らないものだ。性根を真直にすることが第一だ。」
庄吉にはその意
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