#「せい」に傍点]は夫にいった。「図々しいったらありゃあしない。お前さんが黙ってるからつけ上るんだよ。少し躾《しつけ》をしてやらなくちゃ困るじゃないかね。」
金さんはただ首肯《うなず》くばかりであった。彼は棟梁の仕事場から帰ってくると毎晩酒を飲んで、そのまま畳の上に寝転んで鼾をかいた。それを庄吉は蒲団の中に入れてやらなければならなかった。
「小父《おじ》さん、小父さん! 寝るんだよ。」そういって庄吉は彼の頭を持ち上げた。
小父さんは薄眼を開いて庄吉の顔を見た。それから「うむよし。」といって床の中にはいった。彼の横には堅吉と繁《しげる》とがもう眠っていた。
それから庄吉は小母《おば》さんの側で糊をして内職の封筒をはった。彼が眠むそうな眼をしばたたいていると、小母さんはよく斯んなことをいった。
「もっとしっかりおしよ、何だよ眠そうな眼をして。お前さんはもう十歳《とお》にもなるんだからちっとは稼ぐ事も覚えなくちゃいけないじゃないかね。お前さんのためには私達どんなに苦労してるか知れないよ。特別に大留《だいとめ》さんにお願いして年季にも上げないでさ、うちから仕事場に通えるようにしてあげてる
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