である。外廻りの仕事に行った人達は幾度も雨に妨げられて空しく帰って来た。また雨を気遣って普請を延ばす人も多かった。それで仕事場の方の用も少なくなった。
「ほんとに仕様がない天気だなあ。」とお主婦さんは口癖のように云った。
「なに一年中も続く雨じゃあるまいし、そのうちに霽《あが》るだろうよ。」
大留さんはそう云って平気な顔をしていた。
然し仕事場の方は少しずつ人数が減《へ》っていった。倉さんや常さんなどは殆んど顔を見せなかった。そして金さんはその頃から暫くの予定で砲兵工廠に出るようになった。
庄吉は相変らず大留の仕事場に通っていた。それは、金次郎がまた造兵の方を止めて大留の世話になる時のためと、堅吉が来年の春小学校四年を終えて大留に年季に上る時とのために、大留の機嫌を損じないようにというおせい[#「せい」に傍点]の算段からであった。何れは商店の小僧にやらるるのだということが庄吉にも呑込めてきた。
庄吉はよく外に佇《たたず》んで、家の中の話を立聞きした。
或日の夕方彼はまたそっと自分の家の裏口に忍び寄った。中はいつもと違って妙にひっそりとしていた。「何かあったに違いない」と彼は思
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