て作品の価値の標準としている。技巧の巧拙を云々することが、批評の唯一の役目であるかの如き観がある。近頃になって、作の内容に対する論が多少現われてきはしたけれども、それは暗示的内容と具体的内容とを混同したものが多く、そして結局は、やはり作者の表現的手腕が最後の評価対象となりがちであった。
 かく表現の技巧を第一の問題とし、作者の方でも表現の技巧を磨くことに主なる努力を重ね、而もこの技巧が一般に可なり進歩してきた、その結果は何であったか。それは現に月々の作品が説明している通りである。即ち、凡庸事を内容とする巧なる作品の過多である。作者の方では、なるべく手頃な材料をなるべく巧に描かんとする。評者の方では、描写の巧拙を以て作品の価値を律せんとする。両者相俟って、玉砕を捨て瓦全を取らんとするに至る。かかる状態が続く時には、文壇は遂に行きづまることを免れない。なぜなら、技巧的の進歩のみあって内容的の進歩がないから。これだけの事件もしくは人物を巧に描いただけだという歎声は、何に由来するかを考えてみるがよい。それは行きづまった一つの証拠でないか。
 かかる行きづまった状態から文壇を救う方法は、作品の具
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