たね。あの方面は、何よりも憂欝ですね。みんな月給は少いし、相当の生活はしなければならないし、それかって、職工みたいに夜業をしたりなんかする余分の仕事はないし、僅かの時間を――随って月給を――必死になって固守しながら、隙があったら、いくらでも他人の時間を奪おうとしてるんでしょう。それからヒントを得て、私は愉快なことを考えたことがありますよ。会社を創立して、安い月給で大勢の社員を雇い入れる。いくら月給が安くても、失業者がうようよしてる現今、社員は不足しない。そこで、仕事にあり余るほどの社員を雇っておくと、みんな、朝から晩まで社内に鮨づめになって、而も自分の地位を失うまいとして、浅ましい競争、排撃、内紛が起ってくる。面白い光景を呈するでしょうね。
ところで、その……懇親会でしたか。あなたのことをあてつける者がいましたね。あなたも少し用心が足りないものだから、波江さんとのことを随分誤解されて、陰でいろいろ噂に上ったりして、とんだ艶聞を流しましたね。いけないのは、あなたが評論家として少し知られてきたことで、彼奴生意気だと云う者があり、それについて、小料理屋の女とくっついてるとか、女を搾ってると
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