女と帽子
――「小悪魔の記録」――
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)心窩《みぞおち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]
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     一

 今村はまた時計を眺めて、七時に三十分ばかり間があることを見ると、珈琲をも一杯あつらえておいて、煙草をふかし始めた。卓子に片肱をついて、掌で※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]を支えながら、時々瞼をとじては、何かぴくりとしたように見開いている。もうこうなったら、俺のものだ。然し、最後になおちょっと元気をつけておいてやる必要もあるし、心窩《みぞおち》のあたりを擽ってやりたくもなったので――眠いんですか、それとも、瞼が重たいんですか。どっちにしても同じことだが、しっかりなさいよ。あなたのその、薄茶色の帽子がま新らしく、へんにしゃちこばってるのに対して、大島の着物も羽織も、折目がくずれてだらりとしてる、それだからといって、あなた自身、ちぐはぐじゃいけませ
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