のお祖師様にだけある妙法丸とかいうもので、あらゆる腹痛にきく特効薬で、副作用は絶対になく、自分の家では祖母の代から実験ずみだとかなんとか……。あの男、いやに丁寧で、物腰も静かだが、なかなかくわせ者ですよ。人間五十にもなれば、誰だって相当にくわせ者になりますがね。それはとにかく、平賀さんの薬の渡し方と、波江さんの受取り方と、それをすぐにしまいこんだ様子など、よほど親しい仲でなければああはいくまいと思わせるものが、あったでしょう。それをすぐに気付いたあなたも、さすがですよ。それからあなたは黙りこんで、酒ばかり飲んでいましたね。
次の時は、もっとはっきりしていました。まだ宵のうち、平賀さんはもう相当に酔っていて、外に出ようとすると、そこに置いてある棕梠竹の鉢にぶつかってよろけた、ところを、後から送っていった波江さんが、手をかして支えてやった。普通なら、ははは酔ったな、とか何とか笑ってしまうところを、二人でそこに立ち止って、何かひそひそ話をしている。それが、檜の丸たん棒の値段のことじゃありませんか。店の造作に関することなんでしょう。あなたは耳をそばだてながら、苛立ちそして悄気ましたね。
あ
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