たにはなかなか勘定を払わせなかったし、どうかすると、十円札一枚くらいそっと貸してくれましたからね。恐らく全部清算してみると、そんなこと帳面にもついてないから分らないが、あなたはあすこで、初めからただで飲み食いしてたことになるかも知れませんよ。それも、あなたにせよ波江さんにせよ、あなたの将来の輝かしい業績のためにとかなんとか、そんなこじつけの気持があったんなら別ですが、そんなこと少しもなく、ただだらしなくそうなったんだから、少しおかしいじゃありませんか。もっとも、私はそんなのが大好きですが、まあ普通の人間の考えとしてはですね……。だからへんな噂も立ちましょうし、へんなことにもなるんですよ。それをあなたは押し通すことが出来なかったじゃありませんか。
も少し早く、私の流儀に、宗派に、改宗なさるとよかったんですがね。平賀さんと波江さんとの中をかぎつけた時の、あなたの顔付は滑稽でしたよ。平賀さんが、四五人客のいる前で、小さな紙包を波江さんに渡すと、波江さんはそれを受取って、すぐにしまいこみましたね。ところが平賀さんは平気で、その紙包みの中のものを、あなたに向って吹聴したじゃありませんか。堀ノ内
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