し」はママ]、歩きませんか。元気が出ますよ。
それでも、じっと蹲ったまま身動きもしなかった。
――ごらんなさい、いい天気ですよ。も少し太陽がのぼると、靄も消えてしまって、うららかな春の日になりますよ。どうしたんです、いやに考えこんで……。綿布商人の妾なんか、蹴飛しちゃいなさいよ。
――そんなものは、とっくに蹴飛してる。だが、僕の胸の中にあったのは別なものだ。僕の考えは的を外れてたようだ。
――そんなら、あんなばかげたことをやったのも、みな無駄だったんですか。
――無駄ではない。僕は自分自身を軽蔑することを知った。
――つまり、生きてるのが嫌になったんですか。
――いや、こういうところから却って、生きてるのがしみじみ嬉しくなるだろうと思う。
そういうことになってくると、俺には面倒くさくって、勝手にしろという気になるのだ。俺が知りたいのはもっと肝腎なことだが、今村の考えは他の方に向いてるらしかった。
――少し歩きませんか。そんな風にしてると、自分自身から軽蔑されるばかりでなく、波江さんからまで軽蔑されますよ。
今村の心には通じなかったらしく、黙ってじっとしていた。俺はつ
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