前頃から、今村さんの様子が違ってきました。正直に働くのはよいことだが、こんな商売より何かほかに仕事はないものでしょうかと、そういうことは前々からの意見なので、繰返されても別に不思議ではありませんでしたが、私が酒に酔っていると、妙に悲しそうな眼付でしみじみ見ますし、そのくせ御自分では、度々酔ってることがありました。或る晩、もう店をしまった時分にやって来て、締りをした表の戸をわざわざ開けさせ、そのくせ酒を飲むでもなく、私の顔をじいっと眺めて、握手をして、一度本気に殴りつけてやるから覚悟していらっしゃいと、そう云ったきり、呆気にとられてる私をすてて、立ち去ってしまいました。
その、殴りつけるというのが、学校のお仲間の方へとんでいったので、私はびっくりしました。今村さんと御一緒に先生をしてる方で、一度今村さんに連れて来られてから、時々見える人がありましたが、その人の酒の上の話から、私はすっかり様子を聞きました。そして今村さんと私との仲がへんな風に伝えられてるのを知って、またびっくりしました。腹も立ちました。ためしに、平賀さんに向って、今村さんと私との間をどう思いますかと聞いてみると、どうだっ
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