しを見物しました。板の上に四方を紙で張った、小さな行燈《あんどん》みたいなものを拵え、中に蝋燭をともして、波打際から、沖へ押し流すのです。大家《たいけ》で新仏のあるところでは、舟を仕立てて幾十もの行燈みたいなものを、沖の方に浮べ流すのです。それが、湾内の静かな海の上にゆらゆらと浮いて、波頭にもその火がちらちら映って、とても綺麗です。
穏かな晩でした。月は、雲にかくれていたか、それとも出ていなかったか、海岸は薄暗く、そして一面にぼーっとして、かすかな微風がそよそよと吹いてるきりでしたが、夜の浜辺は涼しく爽かでした。磯づたいに、砂の上を、どこまでも歩きたいような晩でした。私達は沖の燈籠を見、波に映ってるその火を見、そして生や死のことなどを考えていました。仰いで星を見ることなんかしませんでした。私には悲しい結婚が、恐ろしい物影のように前に立塞っていました。その時、今村さんと何のことを話していたか覚えていませんが、今村さんは突然私の手を執って、あなたに足りないのは力だけだ、と云いました。私悲しくなって、今村さんの手をはなさず、縋りつくようにして歩いていきました。人がちらほらしますので、浜辺か
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