からって……そう云うと、それが、昔、福岡の海岸の燈籠流しの晩にキスしたことを、なつかしく思い出してることになったんですね。二人でジンカクテルを飲みながら、相当センチになってましたよ。そして相当見っともなかったですよ。上べだけ元気そうな口を利きながら、本当の思いはちっとも云わずに、心は胸の底深く沈みこんでいましたね。
 あの夜、あなたはよく眠れなかったようですね。寝返りばかりしていたじゃありませんか。そして翌朝になると、波江さんから電報が来、やがて速達郵便が来て、今日は行かれなくなったが、明後日の午後七時に御待ち合せしたい、一泊のつもりで……と云ってき、あなたはすぐに承諾の返事を書いて、それから考えこみましたね。何を考えていたんです? 私がいろいろ忠告しても返事をしないで、縁側に寝ころんだまま、起きてるのか眠ってるのか分りませんでしたよ。あなたの社会正義観から云えば、波江さんが金を得んがために身体を提供し、云わば妾同様な生活にはいるのは、許す可らざることかも知れませんよ。然し、ああいう商売をしてゆくにはパトロンの一人や半人くらいあるのが、普通のことですからね。波江さんが東京に出て来てから
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