小さな魚がおよいでいました。そして少しかみてが、滝とも瀬《せ》ともつかない急な流れでゆきどまりとなり、その下に、大人の胸ほどの深さのひろい淵《ふち》をこさえていました。
私と正夫とは、よくその川へあそびに行きました。
泳げるほどの大きな川ではないかわりに、水が清くつめたくて、飲んでもよさそうに思えるほどでした。浅い瀬にはいって、美しい小石をひろったり、水草の間の小魚をつかまえたり、岸にねころんで釣りをしたりしてると、いつまでもあきませんでした。
かみての急流《きゅうりゅう》のところ、それを村の人たちは滝といって、滝の下の淵をきれいなものとして、よこてに小さな石のほこらなどがまつってありました。そこへ、私たちは朝おきるとすぐ、顔を洗いに行くこともありました。
ある朝、そこで顔をあらっておりますと、正夫が、あれッと叫んで、水にぬれた顔のまま、目をまんまるくうちひらいて、淵のなかを見つめました。
「なんだい」と私はたずねました。
「なまず……とても大きななまずが……金色の髭《ひげ》をはやして……」
のぞいてみましたが、私には見えませんでした。もう岩にかくれたと正夫はいいました。けれ
前へ
次へ
全23ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング