山の別荘の少年
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)その甥《おい》に
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私は一年間、ある山奥の別荘でくらしたことがあります。なかば洋館づくりの立派な別荘でした。番人をしている五十歳ばかりの夫婦者と、その甥《おい》にあたる正夫《まさお》という少年がいるきりでした。私は正夫とすぐに親しくなって、いろいろなことを語りあい、いろいろなことをして遊びました。たくさん思い出があります。そのいくつかをお話しましょう。
一 さくら
別荘の裏手の山つづきのところに、たくさんの桜の木がありました。春になるといっぱい花がさいて、家ぜんたいが、花にだかれたようになりました。
山奥の桜の花は、じつにきれいで、都会の公園の花のように埃《ほこり》をかぶっていませんし、平野の花のように色あせていません。花びらがみずみずしくてくっきりと白く、ほんのりと赤みがういて見えます。それが無数にさきみだれて、その間から、かわいい小さな葉が、緑色に笑いだしています。
朝日がさすと、白い綿のようですし、夕日がさすと、うす赤い綿のようです。月の光がさすと、夢のなかの
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