雲のように見えます。
ある晩、私は窓をあけて、月の光がいっぱいさしてるなかで、桜の花をながめました。それから外に出ていって、花の下を歩きました。
幹の影と自分の影とが地面にくっきりうつっていましたが、花は月の光をとおして、ぼーとうす明るく、まったく白雲《しろくも》のようでした。
その白雲の下に、向こうに、正夫がぼんやり立っていました。
私はほほえんで近づきました。
「桜の花は、月の光で見るのがいちばんきれいだねえ」
正夫は私の顔を見たきり、いつまでもだまっていました。
「どうしたの」と私はたずねました。
「だって、僕心配だもの」
「何が?」
「この木ですよ」
正夫が指さしたのを見ると、それはひときわ大きな桜の木で、まるく枝をひろげて、しなうほどいっぱい花がさいていました。日傘《ひがさ》の上に白い雲と月の光がつみかさなったようで、じつにみごとでした。
その木を見てるうちに、私にも、正夫の心配がはっきりわかってきました。
昼間のことでしたが、遠いところから、ここの桜の花のことをきいて、えらい人が見物《けんぶつ》に来たのです。そして花を見てしきりに感心していましたが、ただ一つ
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