から、斧の音がひびいてきます……。
 私はとび起きました。窓をあけてみると、ぱっと朝日の光がさしていて、向こうの桜の木立のなかの大きな一本の枯木《かれき》が、切りたおされかかっているところでした。
 私はいそいで着物をきて、そこに行ってみました。桜の枯木はもう根本《ねもと》を切られて、ぐらぐらしていました。それを、二三人の村人が、縄《なわ》で引っぱりました。枯木は大きくゆらりとうごいて、それからさっと横だおしにたおれました。ほかの木の花がひらひらとちりました。
 正夫が涙ぐんでそれを見ていました。
 枯木のたおれたあとには、びっくりするほど、青い深い空が見えました。私はその明るい空を指さして、正夫にみせてやりました。

      二 なまず

 山奥といっても、南方《なんぽう》のことですから、夏はそうとうに暑く、水のほとりがなつかしくなります。
 家から二三百メートルのところに、きれいな川がながれていました。川床《かわどこ》は岩や小石で、ところどころに深みをつくり、そこには柳や杉などが岸にしげり、また浅瀬《あさせ》となり、そこにはこまかい砂で、芹《せり》や藻《も》などの水草がはえて、
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