ってきました。もうあんなに熟してしまってるのに、いつまでああしてるつもりなんだろう。下におちるかしら。それとも小鳥にくわれるかしら。くわれるとしたら、何の鳥にだろうかしら。
正夫も同じようにそのことを考えていました。
そして私たちは、できるだけその柿《かき》を見ていることにしました。下におちるか、どんな鳥にくわれるか、それとも……。
家の庭から、その柿がま正面に見えました。風のあたらない、日のよくさす、暖かい片隅《かたすみ》に、腰掛《こしかけ》をもちだして、私は正夫に本をよんできかせながら、二人とも時々目をあげて、梢《こずえ》の柿をながめました。青くすみかえった空たかく、柿は赤々とかがやいています……。
その柿と同じような赤い着物を、巡礼《じゅんれい》の赤ん坊がきていたのです。巡礼というのは、まだ三十歳ばかりの女で、菅笠《すげがさ》、手甲《てっこう》、脚絆《きゃはん》、笈摺《おいずる》、みなさっぱりしたみなりでしたが、胸に赤ん坊をだいていました。おずおずと庭にはいってきて、静かなひくい声でいいました。
「今晩、どこでもよろしゅうございますから、お宿を、お願い申したいんでございま
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