手や足にさわった者さえありません。大きななまずどころか、ほかのめぼしい魚もいず、淵《ふち》のなかはがらんとしてるようでした。
それでも私たちは、一日あさりつづけました。身体《からだ》がひえると、着物をまとって、草原の上にねころんで、てりつける太陽の光にあたりました。夕方ちかくなると、焚火《たきび》をしました。だんだんがっかりしてきて、口をきかなくなりました。もうだめのようでした。
その時です、いちどに両方から声がしました。
「いたよ、いたよ」
淵のなかと、西の空と、両方をむいてです。西にかたむいた太陽が雲にかくれようとしていて、そのきれぎれの雲の一つが、なまずの形になって、金色の髭をはやしていますし、それがそのまま、淵の水のなかにもうつっています。それを、私たちが両方見くらべてるまに、もうすーっと、雲の形はくずれ、淵のなかのも消えてしまいました。
私たちはあっけにとられて、言葉もでませんでした。
けれど、それからというものは、朝や夕方の雲の形に、なんとなまずが多くなったことでしょう。そして淵のなかにも、なんとなまずがたくさんになったことでしょう。みんな、金色の髭をはやした大き
前へ
次へ
全23ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング