四日めの夕方、私たちは淵のそばにあつまって、がっかりしました。なまずはもう逃げたのかも知れません……。
「あ、いたいた……いたよ」
 誰かの声がして、みんなで見ると、たしかにいました。大きななまずが、金色の髭をはやして、淵の底のほうを悠然《ゆうぜん》と泳いでいきました。たいていみんなが見たのです。
 すぐに、淵のしもての浅瀬《あさせ》に簗《やな》をはりました。これでしもてに逃げることはできません。かみては滝ですから、そちらにも逃げられません。もう淵のなかにとじこめてしまってのです[#「しまってのです」はママ]。
 私たちはよろこびいさんで、翌日の朝はやくから、淵にあつまりました。網や大ざるをもちよりました。そして裸になって、淵のなかにとびこみました。
 淵のなかは、あちらこちらに岩があり、岩の下には洞穴《ほらあな》があり、小石がごろごろしていましたが、ごみはなくてきれいでした。深さは大人の胸ほどで、滝の水が一方からざあざあおちこんでいます。そのなかで、網をはる者、しゃくう者、水にもぐる者、おおさわぎでした。
 けれど、金色の髭《ひげ》をはやした大きななまずは、いっこうに見つかりません。
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