て、清子の遺骨は、水戸近在の農村から出て来ていた実兄に抱かれて、郷里に帰った。
それから二週間ほど後のこと、三上家の奥まった室で、言い換えれば三上夫人の居間で、来客の松永夫人と三上夫人とが、人を避けてしんみりと語り合った。二人は多年に亘る親友で、女同志の間ではめったに見られないほど打ち解けて、何の隠し隔てもなく、互に信頼しきってる仲だった。
二人は炬燵にはいって向い合っていた。側の卓上には、菓子や果物、緑茶と紅茶、ウイスキーとビールなど、取り散らされていた。この最後の二品は、二人の友情とその日の談話の性質を示すものだった。
「この節の娘たちの気持ちは、わたくしどもには見当がつかなくなりましたわ」
松永夫人はそう言って溜息をついた。彼女の娘で、女子大学に通っているのが、或る新劇団に関係していたが、この三月限り退学して、正式に舞台に立つことにしたと、言い出したのである。映画女優よりはまだましかも知れないけれど、それにしても、学校を中途退学してまでもと、松永夫人は呆れたが、娘は頑として自分の意志を通そうとしてるのだった。
「でも、お嬢さまの考えかたは、自由で明るくて、御心配なさるほどの
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