人は、捜索願いというほどではなく軽い意味で、一応警察に届けさしておいた。
 清子は出かける時、番傘をさして出かけた筈だが、その傘が見当らなかった。他に紛失物はなさそうだった。二百円ばかりはいってる紙入も所持していた。傘は風に飛ばされて、誰かが拾っていったとの解釈もついた。
 いったい、どうして凍死するようなことになったのか、痴漢に襲われた様子もないし、自殺としては、動機も不明だし、他に方法もあった筈だ。誰かに誘拐されたとも思えないのは、胃袋に夕食外のものははいっていなかったし、死亡時間からも推測された。恐らくは、買物に出かけて、その帰り途、あの斜面を吹雪のために滑り落ち、気を失って、凍死するに至ったのであろうと、そう認定された。買物については、何を買うつもりだったのか、誰も知ってる者がなかった。
 この認定に達するには、実は、三上宗助の内密な運動もあった。国家議員という肩書がいくらかの効果をもたらした。なお、三上夫人が警察に一応届け出ていたことが、有利だった。清子が処女だったという事実は、基本的な条件となった。
 斯くして、過失死と認定され、警察の捜査は打ち切られた。仮りの葬儀が営まれ
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