がもう処女ではないと思っておりましたのです。
 わたくしは取り乱したのでございましょうか。でも、わたくしのような立場に立たれましたら、あなたはどうなさいますでしょうか。
 わたくしは清さんとの話を切り上げました。今後のことはわたくしに任せておきなさいと言って、杉山さんからの封筒を預りました。けれど、実は、杉山さんのことはもう遠くにかすんでいて、三上のことが前面に立ちふさがっていたのです。
 わたくしは三上の様子に眼をつけました。清さんの様子にも眼をつけました。それでも、ふしぎに……ふしぎにと言うのが今ではおかしいのですけれど、何の手掛りも得られませんでした。三上はいつもの通りですし、清さんは杉山さんのことが一段落ついて安心したとでもいうような風です。わたくしの疑惑は、外へのはけ口を失って、内攻するばかりでした。
 そのようなわけで、わたくしは自分の気持ちを持てあまし、一層のこと、正面攻撃に出て、一挙に黒白をきめてしまおうと決心しました。
 三上はいつも外出がちですが、或る晩、早めに帰って来ました時、先方の虚を突くつもりで、いきなり茶の間で話を切り出しました。
 女中たちはそれぞれの部屋
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