くしは目にかけて可愛がってやり、三上もあの粗暴な性質にも拘らず、やさしく使っていました。なにか粗相をしでかしても、ただ注意をしてやるだけで、叱るというようなことはありませんでした。三上の身辺の用も、だんだん、わたくしに代って清さんがしてくれることが多くなっていました。
「清さんにばかり任せておかないで、お前も少し僕の面倒をみなさい。」
笑いながら冗談に、三上はそんな風に申したことがあります。
その言葉が、逆な意味でわたくしの胸に蘇ってきました。そのほかいろいろな日常の些細なことが、意味ありげに胸に浮びました。
もしかすると、三上と清さんとの間に、なにか特別な関係が出来ているのではあるまいか。そう疑ぐるのは恐ろしいことですけれど、世間に例のないことではございません。愛情の問題ではなく、ただ気紛れな遊びに過ぎないとしましても、妻としてはそれは堪え難いことではございませんか。
あの晩、清さんのところに忍び込んだ男が、もし三上だったとしたら……。はじめは旦那さまかと思ったと、清さん自身で申しました。前にそんなことがなかったと、どうして保証出来ましょう。断っておきますが、わたくしは清さん
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