ついて、さんざん勝手な嫌らしいことをして、しばらくして出て行きました。その男が、杉山さんだったのです。
 清さんの死体解剖の結果、あのひとがまだ処女だったことが分りました時、わたくしはどんなに喜んだか知れません。いえ、喜んだというよりは、安堵したと申す方が正しいでしょう。
 けれど、清さんから右の話を聞きました当座、わたくしはほんとに息づまるような気が致しました。さんざん勝手な嫌らしいことと、清さんはじっさい言いましたが、それがどんなことだったか分りませんし、詳しく聞き糺すわけにもいきませんでした。わたくしの推測では、これはきっと、清さんが手籠めにされて身を汚されたものとしか思えませんでした。清さんが自分の娘でしたら、そのような点をもっと詳しく聞いただろうと、今となっては残念でなりません。
 あの時、前に坐ってる清さんが、わたくしには悪《にく》らしくさえなりました。身を汚されながら、しゃあしゃあとそのことを打ち明け、涙一滴こぼさないのですもの。もしかしたら、小娘らしく取り澄してはいるものの、案外、すれっからしのしたたか者かも知れないと、疑いの念さえ起るではございませんか。
 それと共に
前へ 次へ
全28ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング