みただけで、持てあまし、わたくしへ差出したのでした。
清さんのその話、あなたもお気づきのことでしょうが、どうも腑に落ちないところがございます。ただそれだけではない、なにかほかにある、そうわたくしも感じました。たとえ杉山さんが、酔ったまぎれに、ちょっとおからかいなすったことがあったにせよ、清さんが着物を換えず寝床も敷かず、夜更けまで警戒していたというのは、おかしいではございませんか。
しばらく考えましたあと、わたくしはその点を、なるべく差し障りのない言葉遣いで、そっと突っ込んでみました。
そうしますと、驚くではございませんか、清さんは、もっと大変なことを平気で打ち明けました。
半月ほど前、お正月の門松がとれた後のことだったと覚えております。やはり大勢の来客がありまして、お正月じまいだというので、さんざん飲み食いしたあげく、そのうちのお三人は、酔いつぶれて泊っていかれました。
その夜中のことです。清さんの部屋へ誰かはいって来て、いきなり、清さんの蒲団の中にもぐり込みました。真暗な中で、清さんはただ固く縮みこんだまま、どうすることも出来なかったそうです。するとその男は、清さんに抱き
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