に、それから三ヶ月ほどたって、その三ヶ月が融資期限で、それがきれると、社長は坪井を呼んで、会社のために骨折って貰いたいといいだした。用件というのは、担保流れになっているパイナップル四千箱の倉荷証券で、金融の途を、而も出来るだけ多額の金を、向う一ヶ月間の期限で、見付けてほしいとのことだった。而も第一に相談してみるがよいとて、他のある商事会社の名まであげてくれた。坪井は意外な気がした。他に先輩もあるのに、ただ機械的に事務をとっているだけの無能視されている筈の自分に、そういう大任が、而も内々にということで云いつけられたのである。
「どうだ、やってくれるかね。」
社長はその太い指先で、卓上の万年筆を無関心らしく弄びながら、小さな眼で坪井の顔を眺めていた。やさしくもまた鋭くも見えるその眼の底のものを、坪井は判読しかねて躊躇した。
「では、これからすぐに行って、返事をきいてきてくれないか。」
坪井はいきなり押しつけられて、それに従った。どうにでもなれという気だった。
ところが、先方へいってみると、すぐに主任が自身で逢ってくれた。彼は坪井の説明をきいてから、大体よろしいが、金額の点は一人できめ
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